自閉症児と健常児が一緒に学ぶことで可能性が広がる          武蔵野東高等専修学校

「不登校」「自閉症」「ラグビー」といいう3つに反応

 

 だれもが、独自の周波数をもっていて、その周波数に共鳴する出来事があると、とても興味をひかれたり、心が高鳴ったりするものだ。この「行動派」で取り上げている話題は、基本的には私の周波数に合うものである。もっと幅広い分野をカバーできるようにしたいとは思っているが、変幻自在の周波数をもっているわけではないので、どうしても、偏りは出てきてしまうことはお許しいだたきたい。

今回紹介する「武蔵野東技能高等専修学校」(以下『武蔵野東』。現在の校名は武蔵野東高等専修学校)は、ピタピタピタという具合に、3つの要素が、私のアンテナを刺激した。ひとつめが、「自閉症」。20年も前から気になっていたことである。そもそも、イルカとの縁ができたのは、イルカと泳ぐと自閉症が改善されるという話からだった。ふたつめが「不登校」。長女が中学校へ行かなくなって、ずいぶんと混乱し、いろいろと考えさせられることも多かった。私の大事なテーマのひとつだ。みっつめが「ラグビー」。私は、へたくそながら、高校、大学、社会人の数年、ラグビーをやっていて、ラグビーがテレビで中継されると必ず見る。

さて、その3つがどうつながるのか、そんなお話から始めていきたいと思う。

そもそも、ぼくが武蔵野東を知ったのは、「不登校」が縁だった。三女の友だちのお母さんから電話をもらった。「この間聞いたけど、お姉ちゃんが不登校なんだそうですね」というところから話は始まった。そのお母さんは、息子さんが不登校で中学校へほとんど行かず、ずいぶんと苦労したらしい。高校進学も、不登校だと内申書がないので、公立に入るのは難しい。どうしようかと思っているときに、武蔵野東のことを知り、そこへ行かせたら、休むことなく楽しそうに学校へ通うようになったという話だった。そのころ、長女も都立のチャレンジ校へ入学し、登校できるようになっていたので、「いい情報をありがとうございます」ということで終わった。次が、「ラグビー」である。日本ラグビー協会のホームページを見ていたら、そこに1冊の本が紹介されていた。大元(だいげん)よしきというスポーツライターの書いた「命のバトン」という本で、何となく興味がわいてきて、それをアマゾンで買い求めた。読んでいくうち、この本の主役である北矢宗志という教師が勤めている学校の名前に聞き覚えがあるなと思った。そうだ、あのお母さんに聞いた学校じゃないかなということで、電話をしたら、「そうです」という返事が返ってきて、武蔵野東に通っている息子さんの近況など話してくれた。ボストンに姉妹校があって、3か月の予定で、そこへ短期の研修に行っていると言うのだ。中学時代不登校だった子が、アメリカまで行っているというのは、私も不登校の子の親を体験したが、親としてこれほどうれしいことはないだろうと思う。そんなことがあって、私の武蔵野東への好奇心のスイッチがONになった。そして、いろいろと調べているうちに、武蔵野東は、自閉症の子と健常な子が一緒に学ぶ混合教育をしている学校だと知り、さらにラグビー部は、バレーボールコート一面ほどのグランドしかなく、元不登校の子と自閉症児だけのチームでありながら、数年前には、全国大会の東京都予選で、1回戦、2回戦、3回戦と勝ち上がり、ベスト8まで行ったという話を聞いた。「ラグビー」は決め手だった。もう居ても立ってもいられなくなって、校長先生に取材を申し込んだのである。

長い前置きになったけれども、子どもが自閉症だったり不登校になったとき、こういう学校があるということは、大きな希望になってくれる。知り合いの息子さんがボストンに研修に行って成長して帰ってきたということに象徴されるように、不登校というマイナスをプラスに転換させることができることを、この学校は証明してくれているのだ。


自閉症児と元不登校の子が刺激し合いながら成長していく

 

高等専修学校というのは、どういう学校なのだろうか? 高校とはどう違うのだろうか? 同校の清水信一校長に、そのあたりからお話をうかがった。

「学校教育法という法律がありますが、高等学校というのは、その第1条で定義されていて、高等専修学校というのは第124条で定義されています。内容的には、高等学校は普通科目が、高等専修学校は専門科目が中心になっています。そのほかには、大きな違いはありません。高等学校と同じように、卒業時には大学受験もできますし、就職も高卒と同じ条件でできます」

 専門学校とよく間違えられるが、高等専修学校は中卒が条件で、専門学校は高卒が条件というふうに考えればいい。つまり、名前に違いはあるが、実質的には高等学校と同じだと考えてもいいのだ。

「ただ、第1条で定義されている学校は学習指導要領に従わないといけませんが、私どもは、学習指導要領には制約されません」

 それだけ自由度が高く、特徴のある教育ができるということなのだ。

 さて、次に混合教育という武蔵野東の大きな特徴についてご紹介する。

 200人を少し超える在籍者のうち、3分の1は自閉症の子だ。そして、残りの3分の2も、中学時代に不登校だった子が多く、高校中退者など、10代で躓いてしまった子どもたちがほとんどである。そういう子たちが、習熟度別にクラスに分かれるから、どのクラスも、自閉症の子と健常な子が混じり合っている。

 混合教育の始まりは50年ほど前までさかのぼらないといけない。

1964年まで、高等専修学校のあるこの場所は、鋳物工場でした。しかし、都市化のために工場を続けられなくなり、その経営者である北原勝平とキヨ夫妻は、ここに幼稚園を作りました。キヨは、立川で小学校の先生をしていました。その幼稚園に、自閉症のお子さんをお持ちの親御さんが、小学校に入学するまでに身の回りのことができるようにしたいので入園させてほしいと訪ねてこられました。当時は子どもの数が多くて幼稚園浪人もあったというくらいですから、障がい者を受け入れてくれる幼稚園はなかったんですね。それが混合教育のきっかけで、以来、自閉症の子を受け入れ続けて、小学校ができ、中学校ができ、1986年に高等専修学校が開校しました」(清水校長)

 幼稚園から混合教育が行われており、高等専修学校へは、幼稚園からこの学園で学んでいる自閉症の子が上がってくる場合がほとんどだ。しかし、健常児は、都立とか私立の高等学校へ行く子が多く、中学校までと高等専修学校とでは、校内の雰囲気がかなり違うようだ。

「幼稚園から中学校では、健常な子が、ある種ミニ先生になっていますね。幼稚園からずっと長く付き合っていますからね。たとえば、一緒にご飯を食べてこぼしたとしたら、中学校までの健常児は、『○○君、こぼしたよ、拾いな。ちゃんとはしをもたないとだめだよ』というような言い方をします。高等専修学校の健常児は、それまで混合教育を体験していないので、自閉症の子を助けてやろうというのは少ないですね。対等です。ですから、こぼすと、『きたねえなあ、拾えよ。きたないだろお前』というふうに言うんです。私は、そういう付き合いが社会に役立つと思っています」(清水校長) 

 武蔵野東には、バディというシステムがある。自閉症児と健常児がペアを組み、いつも声をかけ合い、片方が困っていれば手を貸すのだ。バディというのは、仲間とか相棒という意味だが、ダイビングでは21組で潜るときのパートナーを言う。

「自閉症児にとっては、同年齢の健康な生徒がいることで、いろいろな刺激を受けることができます。特別支援学校だと同年齢の健康な生徒がませんから。社会に出るための子供たちにはベストだろうと思います。

不登校だった子どもは、自分はダメなんだとか落ちこぼれだと思ってしまっています。しかし、自閉症の子と付き合うと、彼らがとんちんかんなことを言ったり、話が通じなかったりするのですが、漢字を書かせたら難しいのをいっぱい知っていたり、英単語をたくさん覚えていたり、計算がものすごく早いとか、びっくりするような子がいるわけです。この子たちもがんばっているので自分たちも・・・と思うんですね。一番最初に自閉症児に歩み寄るのが不登校の子ですよ。自然にそこでバディが生まれます」(清水校長)

健常児が自閉症児の面倒を見るというのがバディという仕組みではない。お互いが刺激を受け、成長していけるのである。武蔵野東のことがNHKで紹介されたことがあったが、そのときに、一人の女の子が変化していく様子が感動的に描かれていた。その子は、小学校のときのいじめが原因で、人と話さなくなった。笑顔も出ない。その子が、自閉症の子とバディを組んで、最初はまったく話せないのだが、次第に変化してきて、1年後には人前で自分のことを発表できるまでになったのだ。何か劇的な出来事があってそうなったわけではない。毎日、自閉症のバディと接するうちに、何かが変わっていったのだ。

「あの番組を見て、いろいろな感想をいただきました。その中で多かったのが、日本の古き良き時代の学校みたいだというものでした。いろいろな個性の子が一緒に学び、教師は一人ひとりの子どもたちと正面から向き合い、目をそらすことなく、子どもたちのすべてにかかわっています」(清水先生)

 私が取材にうかがったときに校内を案内してくれた天宮一大先生は、ラグビー部の監督として、体当たりで子どもたちとかかわっている。眠そうな顔なので、どうしたのかと聞くと、「4日間、ずっと学校へ泊り込んでいる」と言う。泊り込むと言っても、問題のある子どもを学校へ泊まらせての指導なので、ほとんど寝てないのである。うっかり寝てしまうと、そのすきに逃げ出したりする恐れがあるのだ。そういう子は、どこの学校にもいるけれども、ここまで生徒と向き合える学校や先生というのはなかなかいない。

「ほかの高校を中退してきている子もいます。面接のときには、校長という立場ではなく親という立場で話したいと言います。親というのは子供のためなら何でもしたいと思っています。学校へ行くには授業料もかかるし、制服を作ったりしないといけません。お金もかかるんだよ、だからこの学校を卒業してほしいと言うんですよ。中退してここへ来た子で、漏れた子は一人もいません。みんな卒業してくれます」(清水校長)


コンタクトやコミュニケーションの苦手な子がラグビーに挑戦

 

 昨年、陸上部がすごいことをやってくれた。高校駅伝の東京都予選で、107校中18位に入ったのだ。大変な快挙だ。何しろ、7人のメンバー全員が自閉症なのだ。

 ラグビー部は、毎年、がんばっている。全校生徒のうち3分の1がラグビー部員である。元不登校の子と自閉症児のチームが、数年前には東京都予選でベスト8になった。これも驚くべき出来事だ。ラグビーというのは15人でやるスポーツ。相手にぶち当たったりタックルをしたりというコンタクトプレーは当たり前だし、仲間とのコミュニケーションはどのスポーツよりも必要とされている。自閉症の子にとっては、コンタクトもコミュニケーションも、もっとも苦手な分野である。不登校の子も、人と人とのかかわりが嫌で学校へ行かないケースが多い。そういう子が、どうやってラグビーをやるのかと思ってしまう。監督の天宮先生は、高校時代には高校日本代表候補にもなったほどの選手だった。しかし、けががもとで、大学では挫折をしてしまう。やけくそになったこともあったようだ。しかし、彼自身、この学校で働くようになり、自閉症児や元不登校の子とかかわって、感じることがたくさんあっただろうと思う。彼らにとって、何がもっとも必要なのか、考え続けた。苦手だからできないではなく、それを克服する気持ちをもつ必要がある。そのためには・・・。試行錯誤が続いた。そして、その手段として、彼らにとってはもっとも厳しいラグビーというスポーツをやらせるという選択をした。一度決めたら、とことんやらないと気がすまない性格だ。ほかの先生たちとも協力しながら、タックルにいけない子どもの手を取り足を取り、走ってくる相手に飛び込めるように指導していった。ラグビーに不向きな子たちを集めてチームを作り、まともに試合ができるまでにするには、言葉にできないような苦労もあっただろうと思う。しかし、できないと思っていたことをやり遂げたときというのは、特に若い子にとっては大変な自信になる。それが、自閉症児や元不登校の子にとってもっとも必要な自立への大きな一歩になるのである。一人ではできなくても、仲間が支えてくれて、先生が応援してくれれば、子どもたちは可能性を開花させていく。

 帰り際、清水校長に質問した。

「どうして先生は、自閉症の子とかかわろうと思ったのですか?」

 温かな雰囲気を漂わせた校長先生だ。天宮先生をはじめ、教職員は非常に個性が豊かだとお見受けした。こういう懐の大きな校長がいるからこそ、教職員の個性をうまくまとめ、前へ進むエネルギーにできるのだろう。

「実は、私は小さいころから吃音でした。それで、あまりまわりとはコミュニケーションが上手にとれませんでした。教員になりたくて、大学は教員養成の学部へ進みました。あるとき、友だちから『清水、お前は自閉症じゃないか』と言われました。あまり人と話さなかったのでそう思われたのだと思います。その言葉が頭にこびりついて、卒論に自閉症を選びました。いろいろと調べた文献の中に、北原キヨの書いたものもありました。だから、武蔵野東のことは知っていました。卒業するときに、大学の求人票の中に、武蔵野東があって、面接に行き、その場で採用になりました」

 これも奇妙な縁だと思う。こうした縁で世の中は作られているのだ。私が武蔵野東と出あったのも、何か意味があってのことだろう。この間、三女の氣歩を、武蔵野東の学園祭に連れて行った。そしたら、彼女はこの学校のことがすっかり気に入って、「高校はここへ行く」と決めたようだ。私も大賛成である。何度か見学にも行ってみようと思う。こういう縁の広がりというのは楽しいものだ。

 

●武蔵野東高等専門学校

180-0013

東京都武蔵野市西久保3-25-3

0422-54-8611

0422-51-0267(FAX

http://www.musashino-higashi.org

 


月刊ハイゲンキ2012年3月号の「行動派たちの新世紀」に掲載したものです。

月刊ハイゲンキは、真氣光の㈱エスエーエスが毎月発行している会報誌です。

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