だれにでも思いはある。意識障がいと言われてもあきらめないで~白雪姫プロジェクトと山元加津子さん

ヤッサンNetwork 第1回


3時間の命と言われた宮ぷーがみんなの前であいさつをした

 

「こんにちは、宮田俊也です。今日はありがとうございます。5年半前に僕は脳幹出血で倒れ、一生意識も戻らずに、体も動かないまま、死ぬまでそのままと思われるような障がいをもちました。けれども、今、ステージに立ち、こうしてみなさんにあいさつをすることができます。絶望しそうになったときに、一番の勇気になったのは、仲間やたくさんの温かいみなさんの応援です」

「ぼくのように、大きな障がいをもちながら、生きることは、簡単ではありません。けれど、ぼくは一度も希望を失ったことはありません。それは、かっこちゃんが、必ずがんばれば、回復していくと、そばで言い続けてきれたからです。そして、ぼくに深い思いがあることを、最初から知っていて、伝える方法を探し続けてくれたからです。

 ぼくは、世界中にたくさんのかっこちゃんが誕生してくれたらと思っています」

  20141213日。金沢地方は霰と雪と強風という荒れ模様だった。「GoGo!白雪姫プロジェクトin金沢」というイベント開催されるというので、夜行バスに乗って、三女の氣歩と一緒に参加した。最初に紹介した言葉は、この日のハイライトとも言うべき、宮ぷーのあいさつの一部だ。会場中が宮ぷーに注目する。車椅子の宮ぷー。そばには、あいさつの中にも名前が出てきたかっこちゃんがいる。ボランティアスタッフの人がいる。宮ぷーは、特別支援学校の先生をしていた5年半前の2009220日に脳幹出血で倒れた。子どもたちから、「宮ぷー、宮ぷー」と慕われていた。脳幹というのは、生命を維持するための基本である呼吸や血圧、内臓の動きなどをコントロールしている部位で、ここに出血が起こると、9割の人が亡くなり、命が助かった人でも、その8割か9割の人は意識が戻らないまま、いわゆる「植物状態」になってしまう。宮ぷーの場合は、出血が広範囲にわたっていて、倒れたときには、瞳孔が開き、舌が口から出て、呼吸もできず、内臓も動かないような状態だった。医師からは、「3時間の命」と厳しい宣告をされたが、医学の常識からすれば、それはごくごく当然の診断だった。その宮ぷーが、倒れて5年半後の今、また体を自由に動かすこともできないし、言葉を発することもできないのだけれども、まわりからの問いかけには、首を縦に振ったり横に振ったりしながらイエス、ノーの意志表示ができるし、レッツチャットという意志伝達装置やiPadなどの力を借りれば、この日のようにあいさつができるまでに回復している。重ねて言うけれども、倒れたときには「3時間の命」だと言われた人だ。どんなに楽観的に見ても、意識が戻るとは考えられず、だれともコミュニケーションもできず、寝たきりのまま一生を終える人生だった。

宮ぷーは、仲間に力を借りながら、長い時間をかけて、この日のために、あいさつの言葉を準備した。これを完成させるのに、どれだけの時間と労力がかかったか。宮ぷーが、まさに命を絞り出すかのように紡ぎ出してきた言葉だ。iPadを通して伝えられる、自分を支えてくれた仲間や妹さんへの感謝の気持ち一語一語を聞いているうち、胸の奥からジンジンとしびれのような感覚が広がってくる。これが言葉のエネルギーというものかもしれない。私たちが気軽に交し合っている言葉とは違う、より深遠で神聖なものとして、私には伝わってきた。これだけの重い病気をしたのだから、苦しさや悩みや不安や戸惑いがなかったはずがない。しかし、その一方では、自分を支えてくれるたくさんの人がいて、そして、自分が少しでも良くなることがまわりの人に希望と勇気を与えていることも、彼はよく知っている。だから、宮ぷーは決して不幸だと自分を思っていない。彼は、あいさつの最後を、次のようにしめくくった。

「この体になって、可哀想と思う人もいるかもしれませんが、僕はとても幸せです。今日はありがとうございました」

すべての人が思いを伝え、回復できる方法を伝えるプロジェクト

 

 宮ぷーがここまで回復できたのは、あいさつの中にも出てきたかっこちゃんの存在が大きかった。本名、山元加津子さん。宮ぷーの同僚で、これまでにたくさんの本を書いているので、ご存知の方も多いだろう。

プロフィールを見ると、こんなふうに書かれている。

「泣き虫のくせにきかんぼうで、約束は必ず守るうっかり者。この天性のバランスに拍手を送るファンは多い」

きかんぼうで約束を守る――だれが何と言おうと、自分が決めたことは、とことんやり抜く。金沢のイベントのときも、彼女は39度を超える熱があった。でも、やると決めたから、懇親会が終わるまで、きちんとやり遂げた。宮ぷーを回復させると決めたら、もう後には引かない。それは、宮ぷーと約束したことだし、自分との約束でもあり、天との約束でもあるから、絶対に、守る。常識の枠などあっさりと超えて、自分の体験と感性に従って、どんどんと未開の地へも進んでいける。その一方で、泣き虫でうっかり者。これも当たっている。失くしものは数知れず、方向音痴でいつも迷子になっている。教師なのに、子どもたちから慰められたり励まされたりすることも多々あったようだ。まさに、陰と陽との天性のバランスだ。だからこそ、さまざまなドラマが生まれ、日本中のみならず、外国にもかっこちゃんのファンが増え続けているのだ。宮ぷーは、そんなかっこちゃんの良き理解者であり協力者だった。

  かっこちゃんは、宮ぷーが倒れたことで、自らに、さらに大きな使命を課した。それが、白雪姫プロジェクトだ。

「世界中には、たくさんの寝たきりと言われる方がいます。そして、伝えたくても思いを伝えられない人はたくさんいます。意識があっても、意識があると周りに気がついてもらえない人、それからその方法が広まっていないために思いを伝えられない人、回復をあきらめてしまっている人たちがたくさんいます。どうしたらいいのだろうと思いました。

  そしてそれは、 知っている人が伝えなくっちゃならない、知っている人には責任がある。伝える責任がある、と思いました。

   すべての人が思いを伝えられるようになる。回復の可能性を信じられるようになる―これが、今の私の夢です」(かっこちゃん)

 宮ぷーが倒れたとき、医師は、「3時間の命」と告げたあと、「もし助かっても、一生植物状態で、体のどこも動かない四肢麻痺になります」と言った。しかし、かっこちゃんは、たくさんの障がいをもった子どもと接してきた体験から、宮ぷーには、意識があるし、まわりの人の会話をきちんと聞いているという確信があった。だから、「一生、植物状態です」と言う医師に向かって、「大丈夫です」と、自信をもって答えた。宮ぷーへのかっこちゃんのメッセージだった。

 宮ぷーがあいさつの中で言った言葉を思い返していただきたい。

「ぼくは一度も希望を失ったことはありません。それは、かっこちゃんが、必ずがんばれば、回復していくと、そばで言い続けてきれたからです。そして、ぼくに深い思いがあることを、最初から知っていて、伝える方法を探し続けてくれたからです」

 ここに宮ぷーが回復した重要なポイントがある。宮ぷーのように外見上は意識がないように見える人は、もうこの人には何も考えることはできないし、何も聞こえていないと、思われてしまう。そのため、医師や家族が「もう助からない」「一生、意識は戻らない」といったネガティブなことをその人の近くで言ってしまうことがある。動転している家族もいるだろう。そんな状況を、倒れた人の立場で想像してもらいたい。まわりの言葉が聞こえているのだけれども、それに対して、何の反応もできない状態である。一生懸命に、自分には意識がある、聞こえていると伝えたい。しかし、だれも気づいてくれない。それが、明日も明後日も、もっとあとも、延々と続く。どんな気持ちになるだろうか。最初は、何とか自分の思いが伝えられないかと一生懸命になることだろう。しかし、どんなにがんばっても伝わらないとわかれば、次第にあきらめの気持ちになってしまう。本当につらいことだろうと思う。かっこちゃんは、それを知っていたから、「大丈夫!」と、宮ぷーに声をかけ続けた。それが、宮ぷーの希望や勇気につながったのだ。

 かっこちゃんは、毎日、学校が終わると病院へ行き、宮ぷーの耳もとで話しかけた。反応がなくても、絶対に聞こえているという確信のもと、学校での出来事などを、彼に話して聞かせたのだ。3時間の命は、3日に伸び、3週間に伸びていった。そして、彼を観察するうちに、かっこちゃんは、宮ぷーが自分の意志でまぶたを動かせることに気づいた。イエスならまぶたを1回、ノーなら2回。そんな方法で、ついにコミュニケーションの糸口を見つけることになったのだ。さらに、コミュニケーションは高度になっていく。かっこちゃんが、「あかさたなスキャン」と呼んでいる方法だ。


さまざまなコミュニケーションをとる方法が広がっている

 

 あかさたなスキャンは、たとえば、「ネコ」と言いたい場合、かっこちゃんが、「あ・か・さ・た・な」と言っていくと、宮ぷーは「な」のところでまぶたを動かす。これは、「な行だよ」というサイン。次に、かっこちゃんは、「な・に・ぬ・ね」と、な行を順番に言っていく。宮ぷーは、「ね」でまぶたを動かす。これで、「ね」という文字が確定される。同じようにして、「こ」が決まって、「ねこ」という言葉が伝わるのだ。

GO!GO!白雪姫プロジェクトin金沢」では、宮ぷーが回復していく過程を記録したドキュメンタリー映画「僕のうしろに道はできる」の上映があって、かっこちゃんの講演があり、その中で、宮ぷーのあいさつがあった。それ以外に、別の部屋を使って、ワークショップが行われた。ひとつの部屋では指談と介護法、もうひとつの部屋ではスイッチの制作が行われた。毒りんごを食べて意識を失ったお姫様が、王子様や七人の小人たちの温かな愛によってよみがえるというのが、「白雪姫」という物語である。これまで、病気や事故、あるいは先天的な疾患によって意識に障がいがある人とはコミュニケーションをとるのは難しいし、寝たきりの状態から回復するのは困難だと言われてきた。いわば、彼らは白雪姫だ。しかし、そういう人たちにも深い思いがあって、まわりの支えと協力があれば、その思いを伝えることができる。回復することも可能だ。それが、白雪姫プロジェクトの根底にある理念だ。しかし、理念だけでは、白雪姫をよみがえらせることはできない。かっこちゃんは、親友の宮ぷーが倒れて、絶対に回復させると必死になって介護した。たくさんの本を読み、人に会い、自分の知識や体験を総動員して、それを宮ぷーに注ぎ込んだ。さまざまなことを試した。それこそ、常識の枠を超えたこともやったようだ。その結果、宮ぷーは、驚くほどの回復を見せて、仲間に支えられて、病院を退院して一人暮らしを始め、旅行にも行き、そして、金沢のイベントではあいさつまでできた。かっこちゃんは、その過程で、介護する側として、たくさんの体験をして、たくさんの発見をした。それが、白雪姫をよみがえらせる具体的な方法の芯になっている。

 意識障がいがあるご家族をもった人のもっとも切実な問題は、本当に彼らに思いがあるなら、その思いを聞いてみたいということだろう。何がしたいのだろう? 何がしてほしいのだろう? どこかつらいところはあるのだろうか? 

 その方法として紹介されたのが、指談とレッツチャットという意識伝達装置によるコミュニケーションだった。指談というのは、意識障がいのある人の手を取り、自分の指や手のひらに文字を書いて意志を表現してもらうという方法だ。微弱な動きなのだが、手を支えてあげて、小さな動きを読み取ってそれを増幅してあげると、文章を書いて自分の意志を伝えることができるようになる。すぐにできるものではないが、何度か練習を繰り返すことで、その方法によってコミュニケーションができるようになる人が、今、徐々に増えている。微弱な動きを読み取ることを続けていると、初めて見る人には超能力のように思えてしまうのだが、相手に触っているだけで、意志を通訳できるようになる人も出てきた。

 車椅子に乗った10歳の女の子がいた。彼女は、手足が不自由で言葉を出すこともできない。その一家は、白雪姫プロジェクトのイベントに出て、指談というのがあると知って、練習をした。すると、まず16歳のお兄ちゃんができるようになり、さらにはお母さん、お父さんも娘の意志を読み取ることができるようになった。「家庭の雰囲気がすっかり変わった」ととても喜んでいた。指談が難しければ、先ほど紹介した「あかさたなスキャン」をやってみるといいだろう。脳梗塞で2年半寝た切りだったおじいちゃんと、「あかさたなスキャン」で話しができたという例もある。

 この「あかさたなスキャン」を機械でやれるのが、レッツチャットである。この機械を使うにはスイッチ作りが大切になってくる。体のどこかに自分の意志で動かせるところがあれば、その部位を使ってONにできるスイッチを作るのだ。機械から、「あ・か・さ・た・な」と、一文字ずつ声が発せられる。それを聞いて、自分が「ね」と言いたいなら、「な」のところでスイッチを押せばいい。そうすると、今度は、「な・に・ぬ・ね」と機械が声を発するので、「ね」でスイッチを押せばいい。

 さらには、介護する側もされる側も負担のかからない介護法や回復するのに有効なリハビリ法なども、ぜひ多くの人に知ってもらいたい。

 このあたり、くわしいことは、白雪姫プロジェクトのホームページ。あるいは、書籍「僕のうしろに道はできる~植物状態からの回復方法」(三五館)を見ていただきたい。また、宮ぷーの回復を記録した映画「僕のうしろに道はできる」も、とても参考になるし、もしご家族に意識障がいの方がおられるなら、この映画を見ると、「大丈夫だ」「がんばってみよう」という希望がわいてくるはずだ。ぜひ、ご覧いただきたい。

 金沢のイベントには、遠く五島列島から起こしになっている女性がいた。少し前に、ご主人が心筋梗塞で倒れて、言葉が出なくなってしまったのだそうだ。「希望が出てきました」と、彼女は雪の中、明るい笑顔で帰って行った。改めて、この活動の必要性を感じさせられた。東京では「体当たり白雪姫」、大阪には「大阪白雪姫」と、全国各地での活動も増えてきている。宮ぷーのように回復できる人を増やしていきたいという思いで始まったこのプロジェクトの輪が、ますます大きく広がることを願わずにはいられない。


月刊ハイゲンキ2015年2月号の「行動派たちの新世紀」に掲載したものです。

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